クロマグロの味の向こうにあるのは、この島の豊かさ。
産地ならでは獲れたての生の味を目掛けて、島を訪れてほしい。
勝栄水産 取締役
安藤 翔平
2026.3.11
黒い宝石が育つ海、奇跡の若松瀬戸をゆく

7つの有人島と60あまりの島々から構成される新上五島町。その中心にある中通島と若松島を結ぶ若松大橋の下には、南北に伸びる全長約15キロメートルの「若松瀬戸」と呼ばれる海域が広がります。入り組んだリアス海岸に囲まれた海の波間に、いくつも並ぶ黒い輪。この場所で盛んに行われているクロマグロ養殖のイケスです。
実は、養殖クロマグロの生産量全国一位を誇る長崎県。その引き締まった赤身ときめの細かいトロは、全国の料理人の注目を集めています。中でも、新上五島町産の養殖クロマグロは、長崎県が水産物の消費拡大や地元の活性化を図る新たな取組「推し魚」プロジェクト第1号に選ばれたことで、その存在感は高まり、今では県を代表する魚へと成長しています。
この海だから、この島だから、できる

養殖クロマグロのイケスへと向かう船の中。この地で2008年ごろからクロマグロ養殖を始めた「勝栄水産」の3代目・安藤翔平さんが、この海の特徴を話してくれました。
潮の流れが非常に速いため、海水が常に入れ替わり、クロマグロに必要な酸素が供給されること。また、流入する大きな河川がないため、大雨が降っても塩分が変わりにくく、さらに、40メートルほど水深があり、クロマグロが快適に泳ぐ余裕が生まれていることなど。若松瀬戸は、おいしいクロマグロを育てるために必要な水温や水深、海水の交換や透明度などのさまざまな条件に適う奇跡的な場所なのです。
また、五島列島近海はクロマグロの群れが対馬海流に乗って北上する通り道となっているため、ヨコワと呼ばれる幼魚を一本釣りで釣り上げるひき縄漁が行われています。養殖漁場からほど近いため、釣り上げてからイケスに入れるまでの時間が短く、イケスの中は、先ほどまで泳いでいた海と環境が似ていることから、繊細で痛みやすいヨコワにあまりストレスをかけず、養殖へと移行できるのだと言います。
生エサが育てる、60キロの黒い宝石

イケスの中には、数えきれないほどのクロマグロが泳いでいます。勝栄水産では、12台のクロマグロ用イケスを所持(取材時)。ひとつの大きさは直径20メートル、深さ10メートルあり、1台につき400〜500匹のクロマグロが生かされています。養殖を始める時点では、わずか300グラムほどのヨコワを、およそ4年かけて、最大60キロ程度にまで育てていくのだそうです。

イケスに入れた後は、日々のエサやりが欠かせません。与えるのは、 これまた、生産量日本一である近海でとれたサバやイワシなどの生エサです。天然物のクロマグロとできるだけ同じ環境で育てることで、脂に甘みが乗り、身の締まりも格段に良くなるのだそうです。生エサが豊富にとれる豊かな漁場がすぐ近くにあることも、この養殖クロマグロのおいしさの秘密なのです。

養殖において最も気を使うのは、クロマグロの体調管理だと話す安藤さん。体調の悪い個体にいち早く気づき、季節・気候・気温に合わせてエサやりの回数やタイミングを調整することなどが必要なのだと言います。これまで受け継がれてきた養殖のノウハウに加え、クロマグロの状態を見極める確かな目が不可欠です。
幻の生クロマグロを、この島で


クロマグロは4年ほどかけて育て、出荷の時期を迎えます。水揚げの際は、せっかく手塩にかけて育てたクロマグロが暴れ、体温が上昇することによって身が痛まないよう細心の注意を払わなければなりません。そのため、水揚げの際は電気ショッカーで失神させ、船上では素早く血抜き、神経締め、内臓処理を行うなどスピーディーに作業を行います。その後、鮮度を保ったまま長崎魚市場経由で全国の取引先へと送られていきます。
「新上五島町で育ったクロマグロを食べて、一度この味が育った島を訪れてみようと思ってもらえればうれしいですね」。そう話す安藤さん。

新上五島町内の飲食店やスーパーでは、産地の強みを活かし、一度も冷凍されていない生のクロマグロが提供されています。一般的に市場に出回るマグロのほとんどは、一度冷凍されたもので、生マグロは、流通全体の約20%に限られると言われています。しっとりとした独特の食感と濃厚な旨みを味わうことができる生マグロ。希少な生の味は、この海と職人の技があるからこそ実現できるものです。
養殖クロマグロをおいしく食べる方法

「やっぱりマグロは刺身で食べるのが一番」と話す安藤さん。養殖ならではの、細かい脂が回った赤みは、しっとりとした舌触りで、濃厚なコクを感じます。美しいサシの入ったトロは、口の中の体温でとろけていき、飲み込んだ後まで余韻が続きます。




今回は、家庭でも手軽に作って食べられるマグロを使ったポキ丼のレシピも教えていただきました。
①クロマグロとアボカドをさいの目に切ります。
②しょうゆ大さじ2・みりん大さじ1・砂糖小さじ1・ごま油大さじ1を混ぜた調味ダレに20分ほど漬けます。
(調味料の加減は、クロマグロの量や好みにより加減してください)
③あたたかい白ごはんの上に、クロマグロとアボカドを乗せ、ネギを散らして完成!
そのほか、薄く小麦粉をはたいたクロマグロの切り身を、バターで焼きつけ、外は香ばしく、中はレアでいただくバターソテーもオススメです。
安藤さんの養殖クロマグロが買える場所


・カミティバリュー(新上五島町)
毎月第2・第4土曜日の10:30からは生本マグロの解体ショーをやっていま す。