一年に一度の季節もんだから。
一玉に、長崎の春をぎゅっと詰め込んで送ります。
JA長崎せいひ 長崎ハウスびわ部会 部会長
森部 高
2026.3.27
西からやってくる、「甘えんぼう」な宝石の便り

温暖な気候と斜面地を生かしたびわ栽培が行われている長崎県。出荷量・生産量ともに日本一を誇るびわの一大産地です。橘湾に面する長崎半島の東側は、県内でも特に栽培が盛んに行われている地域で、毎年3月ごろからハウス栽培のびわが、5月ごろからは露地栽培のびわが、収穫の最盛期を迎えます。初物は9個入りで、なんと一箱10,000円をこえることも!贈答品としても使われるびわがどのようにできているのか、びわ農家を訪ねました。
土壌も、枝ぶりも。工夫を凝らした栽培方法

長崎市内中心部から南に30分ほど走った場所にある三和(さんわ)地区。長崎市内でもびわ栽培が広く行われている地域です。取材に訪れた3月初旬は、収穫までもうあと一息の大切な時期。ハウスの中では、この道30年の経験を持つ森部 高さんがびわの生育状況をチェックしていました。
ハウスは4段ある段々畑を覆うように建てられています。平地の畑よりも重労働になりますが、水はけのよい土壌を好むびわにとって、斜面地は格好のロケーション。朝日が当たる東向きの斜面であることも、実を鮮やかに色づかせ、風味を最大限に引き出すための大切な条件です。

地面に目を向けると、見慣れないふかふかとしたブロック状の塊が等間隔に置かれていました。これはパームヤシのチップを原料とする土壌改良剤で、土の排水性や通気性を高め、力強い根を張る作用があります。びわは地中の根と地上の枝が連動して大きくなるため、枝先の真下あたりに置くことで、根の成長を助け、立派なびわができるのです。
森部さんのハウスでは除草剤を使わないことで、その利点を最大化しているのだそう。除草剤を使用すると、土が固くなり、根のすこやかな成長が妨げられるからです。その分、夏場の雑草対策に時間と労力が割かれますが、おいしいびわを作るためには欠かせない作業のひとつだと言います。

枝を引っ張る黒いバンドも目を引きました。「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質を強く持つびわは、放っておけば、上に上にと成長し管理や収穫が難しくなるため、剪定や摘芯を繰り返して形を整えていきます。さらに黒いバンドで、枝の先端を誘引し、「頂芽優勢」の性質を弱めることで良質な花芽を確保し、収量が増えることで作業効率を上げることができるのだと言います。
「手のかかる、甘えんぼうさね」

枝先には、たくさんの袋がかけられています。びわ栽培ならではの光景で、今回撮影したハウス内だけで40本の木があり、袋の数はなんと6,000にも及ぶそうです。単純計算すると、1本の木に150袋もかけるという途方もない数字。それを一つひとつ手作業で行う気の遠くなるような作業です。
「びわ栽培はどれだけ科学が発展しても、ロボット化はできないと思う」と森部さん。実際、ほかの果樹であれば作業をアルバイトの方に頼むこともできますが、びわは目の肥えた農家でなければ務まらないほど繊細な作業の連続なのだと言います。

その作業の一つが完全手作業の摘果です。一房におよそ100個咲く花を、成長過程に応じて3個程度に摘果していきます。その判断基準は実が丸いかどうか。親指の爪ほどの、まだまだ小さい実の将来の姿を想像しながら、残す果実を決めるのです。素人目にはその違いが全くわかりませんが、森部さんは「丸かとがおいしかもんね」と、慣れた手つきで実を落としていきます。

収穫の際も、細心の注意が必要です。びわの表面を覆う細かな産毛が傷つくと、そこから身が黒くなり、商品価値が損なわれるそうです。しかも、素手で触れただけで、そうなってしまうほど産毛は繊細。森部さんはじめ熟練のびわ農家の方は、実を触らずに軸だけを持って一つひとつ丁寧に収穫していくのだそうです。慣れや経験がなければ務まらない収穫作業です。「手のかかる、甘えんぼうさ。大事に育ててやればおいしくなるもんね」と木を見上げながら話す森部さん。
丁寧に収穫したびわは、傷や変形、黒ずみがないかを入念にチェックし、一つひとつ手作業で化粧箱に詰められていきます。手間を惜しまず育てた、文字通り箱入り娘です。収穫後、翌日には全国各地の市場へ出荷されていきます。
風味を落とさない、おいしいうちに

森部さんのハウスでは、びわらしい味が楽しめる「長崎早生」、酸味があり爽やかな「涼風」、大玉で果肉に歯ごたえがある「福原早生」の3種類を育てています。「びわの持ち味である風味や香りが飛ばないうちに、買ったらすぐ食べてほしい」と話す森部さん。繊細なびわは、収穫後遅くとも1週間以内(購入後ならば2日以内を目安)に食べるのがオススメです。森部さん曰く、スタンダードに皮を剥いて、そのまま食べるのが、びわの風味を堪能できる食べ方だそう。
※(森部さんが所属している)JA長崎せいひでは、びわのおいしい食べ方ややご家庭で作れるレシピを紹介しています。(外部リンク:【旬の果物】びわのおいしい食べ方と保存方法・レシピ・効能まとめ)

最後に、「季節ものは特別だから、年に一回の便りとしておいしか長崎びわを楽しんで」と笑顔で話す森部さん。平均年齢70歳を超える三和のびわ部会に、この春、25歳の若者が新しく加わると言います。長崎の斜面で、一粒一粒、愛おしみながら育てられた黄金色の宝石。一年に一度、初夏の風とともに届くその贅沢な風味を、ぜひ五感で味わってみてください。
もぐもぐながさき