長崎県の魅力溢れる食材や生産者との出会いを求めて
日本料理「旬房」
2024.2.26
長崎ならではの食材を探しに
今回、東京都の六本木に位置するホテル「グランドハイアット東京」より、副総料理長の根笹氏が長崎県の食材を視察するため、県内各地の生産者を訪れました。
「食材に求めるものは何ですか?」との問いに「やっぱりどんな食材でも鮮度が一番。鮮度の高いものは、匂い・見た目・潤い・食感が全く違う」と答える根笹氏。どんな食材との出会いが待っているのでしょうか。今回は五島市福江島での産地視察に密着しました。
新鮮で多様な魚種が水揚げされる、全国一の魚種を誇る長崎県
◻︎有限会社 福江市魚市(五島市福江町)
朝一で訪れたのは、水揚げされたばかりの新鮮な魚が並ぶ「福江市魚市」です。魚種の豊富さと鮮度の良さに驚きつつも、魚を見つめる眼差しは真剣です。
生け簀の中にはまだ生きている魚も。
競りが始まると、活気のある声で次々と競り落とされていました。
視察を終え、ちょうど朝日が昇る頃「東京で見る朝日とは美しさが違う!」と感動。
「人も海も豊かに」いま自分たちにできることを
◻︎金沢鮮魚 (五島市富江町土取1237)
魚市視察後は五島で約70年間鮮魚店を営んでいる「金沢鮮魚」を訪問。金澤代表に鮮魚の仕立てへのこだわりや魚醤「五島の醤」についてお話を伺いました。
金沢鮮魚では「人も海も喜ぶ循環を作ること」を使命とし、食品ロスの軽減やSDGsの実践に取り組まれています。その一つが、発送資材の選択。発送資材を「発泡スチロールから段ボールに変更した」と聞いたホテル側の皆様は、「我々も普段発泡スチロールで魚を受け取っているよね?」と驚かれていました。世界的に問題になっている海洋プラゴミ削減の為に、海をはじめとした自然界で分解されにくい発泡スチロールを極力使用せず、再生利用可能な段ボールでの発送など、消費者の方には直接見えない部分にこだわっています。
また、獲れた魚の素早い血抜きや神経締め等で鮮度を維持し、魚を美味しくするための“仕立て”にも力を入れられており、仕立てにこだわることで、生臭みがなく、鮮度が高い状態での出荷・発送に努められています。
防水加工を施された発送用の段ボールと五島の醤
そして、金沢鮮魚が目指す循環の一つの理想形が魚醤「五島の醤」です。規格外の魚や、市場価値が低く海藻を食べ尽くす魚やウニを原料とし、製造過程で出た絞りカスも農家に提供して廃棄を出さない循環型の無添加調味料です(これもまた、SDGs!)。
原料となる魚は金沢鮮魚の技術で仕立て、さらに、麹と五島列島の椿の花から取れた「五島つばき酵母」を合わせて発酵させることで、フルーティで旨味の濃い魚醤ができるそうです。
販売されている醤油麹、米麹の魚醤、現在開発中の生醬油の3種をテイスティング
「生臭みが全くない」と驚きつつテイスティングを進める中で、根笹料理長は開発中の生醤油が特にお気に入りの様子で「ノドグロのエキスだなんてなんと高級な!」「ドレッシングにしても良さそう」「これは是非欲しい」と大絶賛でした。
五島の食文化に深く根付いた、千年以上の歴史が織りなす味
◻︎株式会社 中本製麺 (長崎県南松浦郡新上五島町)
次に、日本三大うどんの1つともされている、「五島手延うどん」を製造する株式会社 中本製麺へ。五島手延うどんがどのような工程で作られているのかを、代表取締役の中本様に伺いました。
五島手延うどん特有の、細麺で有りながらコシの強さのあるうどんが、手間隙かけて作られていく様子を製造工程の写真と共に詳しく説明していただきました。
その日その日で変わる温度や湿度によって、熟成度や塩分を細かく調整することが大事だと聞き、うどん作りの繊細さに感心されている様子でした。
工場に隣接されている「おっどん亭」にて五島手延うどんを試食。五島うどんならではの「地獄炊き」でいただきました。「地獄炊き」は、五島の代表的な郷土料理のひとつで、乾麺を鉄鍋でグツグツと茹でて戻し、それを五島沖で獲れたトビウオの「あごだし」、アクセントとしてネギやかつお節、醤油を入れて溶いた卵に麺を絡めていただきます。
「のどごしがいい!」「細麺なのにコシがある」「あごだしがとっても合うね」「細麺だからパスタみたいにしても使えそうだね」と味わいながら、お料理に活用するイメージを膨らませました。
遣唐使の時代から続く椿油、食用にも美容にも
◻︎合資会社 椿乃 (長崎県五島市吉田町)
最後は、椿油専門店の椿乃へ視察へ訪問。
椿乃はお肌用の基礎化粧品・ヘアケア商品・食用オイルなど幅広いラインナップで椿油を使った商品を販売されております。
五島市は約440万本もの自生している椿があり、全国的にもトップクラスの生産地です。
一般に流通している椿油と椿乃で搾油した椿油を比較テイスティング。
口に入れる前から「香りから全然違う」「ナッツ系の匂いがすごい」と感動されている様子でした。
塩味を加えてのテイスティングでは、「そのままでも香りが抜ける感じで美味しいけど、塩が入ることによって味がキュッとしまる」と料理人ならではの味の違いを吟味しておられました。
「これはもうイメージが湧きました」と根笹料理長の一言で、その場の雰囲気が「おぉ~」とどよめきました。根笹料理長の手によって、どのような形で五島の食材が生まれ変わるかが楽しみですね。
取材日:2022/11/25 ライター:RuRi #ナガサキタビブ