食材の産地と生産者を知る事で、料理のイマジネーションが湧いてくるんです。

アマン東京 イタリアンレストラン「アルヴァ」

大久保 武志

アマン東京 イタリアンレストラン「アルヴァ」

2024.2.6

去る2023年12月5日~7日、世界に小規模なラグジュアリーリゾートを展開するホテルブランド、アマンの日本地区統括西洋料理長 平木 正和氏と、イタリアンレストラン「アルヴァ」料理長 工藤 和明氏が、産地視察のために3日間、長崎県を訪れました。視察は、平戸市〜長崎市~諌早市〜雲仙市〜南島原市〜島原市〜大村市〜東彼杵町と広範囲に及びましたが、その産地視察一日目の様子をお伝えします。

平戸瀬戸市場|平戸市田平町

最初に訪れたのは「平戸瀬戸市場」。ここには平戸全体から沢山の新鮮な生鮮品や特産品が集まり、日々活気に満ちています。1階には平戸最大級の直売所、2階には平戸大橋を眺める展望レストランがあり、新鮮な海産物が食べられる「海鮮丼」等を求め、平日でも多くの人々で賑わっています。

瀬戸市場には、地元の漁師さん達が直接、獲った魚を持ち込まれ、値段も漁師さんが付けてられるのだとか。腹出し等、捌く手間賃は取らず(状況によるが基本3尾まで)売り場から中が見える加工場は、常にフル回転です。また加工場には瞬間冷凍の出来る機器も備えてあるため、地方発送も可能、店頭販売と同じ価格での取引という事で、平木シェフも「良いお話を伺いました」と興味を示されていました。

市場の視察の後には、2階のレストランで、ウチワエビの試食をさせて頂きました。身が締まってブリンブリンのウチワエビの味は、伊勢海老に匹敵するとの評価を得ています。

日本全国の生産地を訪ね歩き、“食材ハンター”の異名を取る平木シェフに、そのきっかけをお尋ねしてみたところ「17年間イタリアに居て日本に帰ってきた時に、日本の食材に慣れ切れない所があったのですが、生産地を訪れ、直に生産者さまのお話を見聞きすることで食材の背景が具体的に見えるようになりました。そしてそこからイマジネーションを広げ、料理を構築していくようになったんです。」と話してくださいました。

長崎ファーム |平戸市古江町

次に訪れたのは、同じく平戸市の「長崎ファーム 」。ここは、平戸市で唯一のクロマグロ養殖業者です。平戸市最高峰の安満岳の清流と、対馬海流の恵み豊かな入江に面した湾口の付近に、連なる直径20m円形生簀で、クロマグロを養殖されています。生簀までは、港から漁船に乗って、約5分程で到着します。

生簀の近くには、鮮度の良いサバが水揚げされる漁港があり、餌は基本、生魚が使われています。視察当日も元気よく餌に飛びつくマグロの姿が見られました。現在、生魚のみで育ったマグロと、配合飼料も併用したマグロでは、肉質や味にどのような違いが出るのか実験中なのだそうです。

「マグロを捕獲する時には、どのようにされてるのでしょう?」というシェフの問いには「うちでは電気ショッカーを使っています。」との回答がありました。電気ショッカーを使うと瞬間的にマグロの動きを止めることができるそうですが、網で捕獲すると網の中で暴れて「身焼け」が起こるそうです。「身焼け」が起きても外観では判別できず、解体した時に初めて解るため、品質管理のために電気を使ってるとのお話でした。今後の展開としては、天然種苗を用いた養殖は、日本全国で活込み尾数が規制されているため人工種苗から育てたマグロの生簀を増やしていく方向を検討されているそうです。

ゆうこう(霧氷酒造) | 長崎市神浦夏井町

平戸島北端での視察の後は、車で2時間程移動して、外海の丘にある「霧氷酒造」へ向かいました。そこでは外海地区と土井の首地区のみに自生する「ゆうこう」という柑橘を使った酒が製造されています。使用する「ゆうこう」を育てている畑へと案内して頂きました。「ゆうこう」は平成20年、食の世界遺産「味の箱舟」に認定され、最近では長崎市の特産物にしようと、栽培活動にも力が入れられています。栽培管理も簡単で、わざわざハウスを使わなくても路地栽培で十分育つそうです。

見た目はユズやカボスに似ており、果肉はやわらかく、甘みのある舌に刺さらない酸味が特徴で、香りはユズに似ていますが、苦味はありません。強すぎない香りが料理の邪魔をしないとして、国内外を問わず、料理人から注目されています。平木シェフは、徳島に独自で自生している「ゆこう」も視察されたらしく、名前や自生状況の共通点に、大いに興味を示してられました。

事務所では、実際に「ゆうこう」の実を切って貰ったり、果汁や加工されたお酒も試飲させて頂きました。実際に香りや果汁を確認されたシェフは、味覚においても徳島の「ゆこう」との共通点を実感。「ゆこう」はスダチとユズを足して2で割ったような感じなので、「ゆうこう」も何かとの掛け合わせがあるのかも…と話されていました。

長崎和牛(出島ばらいろ) | 長崎市三京町

夕暮れ時を過ぎた頃、本日最後の訪問地、長崎市三京町の、長崎和牛飼育農家に到着しました。平成24年「第10回全国和牛能力共進会」で、内閣総理大臣賞を受賞した「長崎和牛」、その中でも、JA長崎せいひ長崎地区肥育牛部会員8戸のみで生産されている牛肉が「出島ばらいろ」です。おなじ飼料を使い、飼い方を研究しながら、8戸で更なる品質の向上を目指しています。霜降り具合だけでなく、脂身と赤身、それぞれのおいしさが際立っているのが特徴です。

他の農家と同じ飼料を与えながらも、トップクラスの成績を収めてられる三京町の岳下さんに、その違いは何処で出しているのか尋ねてみました。すると「飼料の配合バランスと与える時期、そして目利き」というお返事が。良い牛に育てるには先ずは、良い仔牛が選定出来る技量が必要というお話でした。それに加え、牛舎を清潔に保ったり、体調管理に留意したり、動物用の心地よい音楽を流すようにして、牛のストレス緩和に努めているそうです。

通常29か月経った牛は出荷可能になるそうですが、岳下さんの所では、35か月頃まで育てると聞いて、平井シェフは大変驚いてられました。コストも関係してくる話なのですが、岳下さんは、スイカを例に挙げ「最高に熟れた状態で出したい」と仰っていたのが印象的でした。「全国和牛能力共進会で日本一になってから全国的にも注目され、知名度も上がってきたところですし、全国の人に、もっと『出島ばらいろ』のおいしさを知ってもらいたい」と話してくださいました。

視察第1日目を終えた段階のお二人のシェフの感想を伺ってみました。

【平木シェフ】

日本各地の生産者の所を次から次へと回ってきた身であるからこそ気付ける、長崎の生産者さまの強い熱意やこだわりを感じました。全く同じ事を聴いても、生産者によって違う答えが返ってきたりしますが、それはどれが正しいと言うのは無く、この方の食材は、こういうこだわりや理念があるから、こう調理した方がいいのかなという新たなイマジネーションを、その言葉から得る事が出来ます。「料理を違った角度から見れるようになる事」が、生産地を訪ねる醍醐味でもあります。

【工藤シェフ】

私は平木シェフほど多くの生産地を訪ねてきたわけではないですが、今回初めて長崎に伺ってみて、素晴らしい食材が沢山あるのだなと感じました。今日見た食材は、どれもとても魅力的で興味をひかれました。食材をキッチンに持ち込んでから、想像が膨らんでくる事もあるので、明日からの視察先も大変楽しみにしています。

 

取材日:2023/12/5 ライター: MILK(#ナガサキタビブ)

アマン東京 イタリアンレストラン「アルヴァ」

〒100-0004 東京都 千代田区大手町1-5-6 大手町タワー レストラン予約:03-5224-3339 Email: amantokyo.fbres@aman.com

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