朝5時まで海の中を泳いでいたマアジを
一秒でも早く、新鮮なまま、届けたい
幸丸 船長
渡邉 英幸
2026.3.11
聖地・松浦のマアジを支える、スピード勝負の漁

長崎県の北部、玄界灘に面する松浦市。年間を通してコンスタントに、マアジが月1,000トン以上水揚げされる日本一の産地です。松浦市の沖を流れる対馬海流は流れが早く、マアジの主食となるプランクトンや小魚を豊富に含んでおり、獲れたマアジは、身の締まりも味わいも格別。量・質ともに申し分ない産品として、これまで長年、全国の各家庭の食卓を支えてきました。2019年からは市をあげて、「アジフライの聖地」としてPR。ひと味もふた味も違うアジフライを食べようと、観光客も訪れるようになりました。 松浦市の水産業だけでなく、今や観光業にもなくてはならないマアジがどのように水揚げされているのか、生産者の方を訪ねました。
一糸乱れぬ阿吽の呼吸で、マアジをとる

時刻は早朝5時。場所は、鷹島肥前大橋を渡った先の鷹島の漁港です。真っ暗な港で漁の準備をしていたのは、幸丸船長の渡邉英幸さんと、親族の勝幸さん、勝太さんです。準備を終えると、船の灯りのほかは、島との境も、空との境もわからない漆黒の海へ出港します。操舵室で渡邉さんにお話を伺おうとすると「今集中しとっけんが」と笑った後、真っ暗な海の先へ射抜くような視線を向けました。取材日までの数日間は時化が続き、漁に出られなかったとのこと。漁への期待と責任感が見え隠れしていました。

渡邉さんの漁法は定置網漁。港からおよそ2キロの場所2ヶ所に網を仕掛けています。定置網漁は入り組んだ地形や大きな湾で真価を発揮するため、マアジ漁が盛んな松浦市の漁場の中でも鷹島はまさにピッタリの場所。玄界灘の複雑な海底と潮流の早い対馬海流、そして山からの栄養をたっぷり含んだ伊万里湾からの海水が重なりあい、マアジの好漁場となっているのです。
定置網漁は、海の中に網を仕掛けておく「待ち」の漁。魚の通り道になる場所に、事前に「垣網(かきあみ)」と呼ばれる網を仕掛けます。障害物に当たると、深い方へ泳ぐ魚の性質を利用し、垣網の先にある「運動場」と呼ばれるスペースへ誘導。そこから傾斜をつけた「登網(のぼりあみ)」を通って、袋状になった「箱網(はこあみ)」に魚が入る仕組みです。

10分ほど沖へ進み、仕掛けに到着しました。網の周りに等間隔に置かれたブイ(浮き)を目印に、船を横付けします。船の周りをひっきりなしに飛ぶカモメには目もくれず、3人は手際よく作業を始めました。


魚がたくさん入った箱網を、船の左右にある油圧式の巻上機やカギ棒を使い、巻き取っていきます。網を破かず、かつ網の中にかかる魚を傷つけないためには、左右のスピードや力加減をピッタリ合わせることが必要です。海の中の様子と、反対側で作業する勝幸さん、勝太さんを交互に見ながら網を手繰り寄せる渡邉さん。次第に、水面におびただしい魚影が浮かんできました。


高値がつく魚やサイズが大きな魚は、このタイミングで小型のタモ(網)で丁寧にすくい上げます。そして、もう一度網を手繰り寄せたあと、クレーンタモと呼ばれる大きな機械を使い、文字どおり一網打尽にしていくのです。クレーンの高さや動きを操縦する渡邉さん、細かな補佐をする勝太さん、適切なタイミングでタモの底を開く勝幸さん。3人とクレーンと船が一体となるダイナミックかつ繊細な作業です。出港してからおよそ1時間。あっという間にコンテナは魚でいっぱいになりました。
鮮度の理由は、スピード勝負の出荷


港に着いてからも、マアジの鮮度を落とさないよう時間勝負の作業が続きます。とれた魚を魚種やサイズに応じて選別し、必要に応じて神経締めを行い、市場でのセリに間に合わせるのです。漁場と港との距離、港と市場との距離が限りなく近いのも、松浦市の水産業の大きな特徴。朝まで海の中を泳いでいたマアジを、その日のうちに直売所で購入したり、飲食店で注文できるのはまさに「聖地」ならではの贅沢です。

忙しい朝の一仕事を終え、渡邉さんの顔にも笑顔が見えました。青魚のマアジは脂が酸化しやすいため、鮮度が命。定置網漁なら、繊細なマアジの身をできるだけ傷めずにとれると話す渡邉さん。「せっかくなら産地である松浦市に来てもらって、この場所で新鮮なマアジを食べてもらえれば」と話してくれました。
おいしく食べるイチ押しの捌き方



アジフライが有名な松浦市ですが、今回は漁師ならではのマアジをおいしく食べられる捌き方を教えてもらいました。

①ゼイゴ(尾の付け根にあるトゲ状の部分)を取り、頭を落とします。
②背ビレと尾ビレを薄く削ぎとり、ハラワタを出します。
③中骨ごと薄くスライスして、いただきます。
骨ごと薄くスライスする「背切り」と呼ばれる捌き方です。プリプリとした弾力と、脂ののった身の甘み。驚くべきは、噛めば噛むほど骨の奥から出てくる旨み。大衆魚という概念が変わる、格別の味わいです。松浦産の新鮮なアジを見かけた際は、ぜひ挑戦してみてください。
※骨ごとスライスするため、小さめのマアジがオススメです。
渡邉さんのマアジが買える場所

この他、松浦市内で松浦市産のマアジが買える場所はこちら
・道の駅 松浦 海のふるさと館
・とれたて福の島
・旬市場
・海の里
※ただし、時化の影響等により魚の入荷がなく、販売できない場合もあります。
※定置網ってどんな漁法?(出典:長崎県庁ホームページ)
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2016/07/1467715442.pdf