数千年の時が積もった「太古の恵み」を、
一本一本、手作業で掘りすすめる。
よしむら園芸 代表
𠮷村 輝幸
2026.1.23
丁寧に掘り出す幻の味。唐比れんこんのロマン

西彼杵半島と島原半島のちょうどつなぎ目に位置する海沿いの町、諫早市森山町唐比(からこ)地区にやってきました。毎年9月ごろから、唐比れんこんの収穫が最盛期を迎えます。唐比れんこんは、生産量の少なさと収穫の難しさから「幻のれんこん」とも呼ばれています。
唐比れんこんを育む、恵み豊かな土

畑を案内してくれたのは、この道50年近くの経験を持つ農家の𠮷村輝幸さん。実は、唐比地区は、古くから知られるれんこんの産地。古くは奈良時代に書かれた「肥前風土記」にも、おいしいれんこんがとれる地と記載されていると言われています。

それほど歴史のある唐比れんこんに、もう一度光を当てた中心人物の一人が𠮷村さんです。生産量の少なさから、かつては地元での流通に限られていたと言いますが、「幻のれんこん」や「太古の恵み」といったキャッチフレーズでブランド化に奔走。今では全国の料理人とも取引が始まり、メディアでもたくさん紹介されるようになりました。

「太古の恵み」というフレーズには、この土地の土にかける特別な思いが込められています。
「ずっと大昔、ここは海だったと言われているんです。それが地殻変動によって、海から切り離されて、湖になりました。そこに、この辺りの山の木の葉や木の実が舞い落ちて、数千年もかけ、堆積していったんです」

太古の植物が長い時間をかけて分解され、生まれたこの土こそが、唐比れんこんのおいしさを育んでいます。葉っぱの繊維や木の実が混ざったミネラル豊富な土は、「泥炭層(でいたんそう)」と呼ばれており、「この土で育つからこそ、唐比れんこん独自のおいしさが生まれます。唐比れんこんには、太古のロマンが詰まっているんです」と𠮷村さんは言います。
「幻のれんこん」、ここにあり。

一方で、この良質な土が、収穫の際は最大の難関になります。水分をたっぷり含んだ柔らかな土では、水圧で掘る一般的な方法では掘ることが難しく、完全手作業で収穫するほかありません。腕を土の中に埋め、土のかたまりを重機のように掘り上げながら、れんこんを探す𠮷村さん。
最も神経を使うのは、れんこんを見つけた時です。細長いれんこんを、折ってしまわないよう、先ほどまでのダイナミックな掘り方とは一転して、慎重に作業を進めます。一つひとつ手作業で掘り出す収穫方法が、唐比れんこんが「幻」と呼ばれる理由のひとつなのです。

掘り出されたれんこんは、ふっくら丸い一般的なれんこんとは異なり、細長いのが特徴です(4節で1メートルを優に超えています)。スーパーで見かけるれんこんは品種改良された「金澄(かなすみ)」と呼ばれる品種が主流ですが、唐比れんこんは、中国伝来の「備中種(びっちゅうしゅ)」。昔ながらの姿を今に伝える、全国的にも珍しいれんこんです。
「唐比のれんこん」を全国へ

唐比れんこんの特徴は、味わいにもあります。甘みと旨みの強さ、糸を引くほどの強い粘り。調理次第で、ホクホク、シャキシャキ、モチモチと食感が変化します。
「ある時、都会に出た友人から『唐比のれんこんが食べたかー』と言われたんです。私は、昔から食べ慣れていたので、他との違いが分からず。試しによそのれんこんを買って食べてみたら、全く違って、こんなに違いがあるなら、全国の人も唐比れんこんを食べたいと思ってくれるかもしれないと考えました」
眠っていた唐比の宝に光が当たる瞬間でした。𠮷村さんをはじめ地元の生産者たちが一丸となり、産直市場での販売やレシピ紹介など、地道な広報活動をはじめました。

当時から、イベントやメディアで唐比れんこんのレシピを紹介してきたのが、𠮷村さんの奥さまの節子さんです。長崎になじみ深いクジラ肉とかまぼこと一緒に、炒め煮のように仕上げた「唐比れんこんの煮しめ」は「特にみなさんに喜んでもらえる料理」だと言います。一口食べると、れんこんのみずみずしいシャキシャキとした食感。「このシャキシャキ感を出せるのが、うちの唐比れんこんならではです」と𠮷村さんが誇らしそうに話します。

唯一無二の味わいと、この土地ならではのストーリーを絶やさず、50年近くの間、唐比れんこんを大切に守りつづけてきた𠮷村さんご一家。 「太古の恵み」のおいしさを、ぜひ一度味わってみてください。(写真右から、𠮷村輝幸さん、節子さん、長女の山城和子さん)
唐比れんこんをおいしく食べる方法
唐比れんこんのソテーの作り方
①唐比れんこんを、輪切りと縦切りにカットします(食感の違いを楽しむため)。
②多めのオリーブオイルで両面に焼き色がつくまで焼きます。
③塩コショウとガーリックパウダーをふりかけ、完成!
唐比れんこんの保存の仕方

泥を落とした唐比れんこんを節で切り分け、濡れたキッチンペーパーとラップで包みます。1週間ほど保存が可能です。
𠮷村さんの唐比れんこんが買える場所

- もぎたて市(諫早市森山町)
