食べて感動して、おみやげにお持ち帰りも。
大切な人の顔が浮かぶうどんを作りつづけていきたい。
浜崎製麺所 代表取締役
浜崎 祥雄
2026.2.28
うどん好きが最後に辿りつく、離島の絶品麺

五島列島の北部に位置する新上五島町。十字の形をした島は細長く、険しい山々が海に迫っています。新上五島町は古くから世界のさまざまな国との交流の歴史を持ち、奈良・平安時代には、日本と大陸をつないだ遣唐使も、風待ちの港として訪れたと言われています。
その歴史を物語るもののひとつが今回ご紹介する「五島手延べうどん」。遣唐使が中国から伝えた麺の製法をもとに、島の人々が知恵と工夫をこらして生みだされた、この町の特産品です(※)。現在では、日本三大うどんのひとつにも数えられ、全国のうどん好きを唸らせています。
※五島手延べうどんは、令和7年に日本遺産「国境の島 壱岐・対馬・五島 ~古代からの架け橋~」の構成文化財にも認定されました。
ツルツル、もちもち。至極うまい、この喉ごし

そんな五島手延べうどんを気軽に食べられる食事処「麺’s はまさき」にやってきました。店の前には港が広がり、在りし日の遣唐使の姿が思い浮かぶようです。2016年にオープンしたこの店を営むのは、1971年創業の「浜崎製麺所」。迎えてくれたのは、3代目の浜崎祥雄(やすお)さんと弟の洋敬(ひろあき)さんです。

お店いちばんのオススメのメニューが、この「地獄炊き」。五島手延べうどんの最もポピュラーで、最もシンプルで、最も野趣あふれる食べ方です。一般的なうどんに比べ、半分以下にも見えるその細さも特徴の五島手延べうどんを、ぐらぐらと沸いた鍋に入れ、5分ほどゆでればできあがり。元々は漁師の活力源として愛されてきた食べ方で、その名の由来は、食べた人があまりのおいしさに「至極(しごく)おいしい」と言った言葉が、「地獄」と聞き間違えられたからという説もあるのだとか。


麺を持ち上げる専用の道具「うどんすくい」で、ツルツルとした五島手延べうどんをすくい、生卵にしょうゆを混ぜたタレと絡めます。シルクのような喉ごしと、噛むたびに押し返す強いコシ、ゆでたてのモチっとした食感。シンプルな調理法だからこそ、五島手延べうどんのおいしさが際立っています。「至極おいしい」と言葉が出るのもうなずける味です。
幻の生麺と、手延べならではの“ふし”


もう一品のオススメは「鍋焼きうどん」。ぐつぐつと煮込まれているのに、特有の強いコシと喉ごしはしっかり残っています。その秘密は、五島手延べうどんの製法にあるのだと祥雄さん。製麺工程で麺の表面に島内産の食用椿油を塗り、熟成を重ねることで、独特の強いコシが生まれ、煮崩れを防ぐ効果があるのだそうです。


また、地獄炊きとは異なり、生麺を使用するのも特徴のひとつです。一般的に全国に流通している五島手延べうどんは乾麺がほとんどで、生麺を食べられるのは、島内でも限られたお店のみ。まさに製麺所が運営するお店ならではの一品です。
生麺の魅力を、「モチっとした食感と食べ応え、手延べ感のある不均一な太さの麺」と話す洋敬さん。よく見ると、ところどころ平たい部分があります。麺を引き延ばす際に、棒にかかっていたU字型の部分で、“ふし”と呼ばれています。乾麺にする時は切り落とされてしまうため、なかなかお目にかかることのできない希少な部分です。のばす時に最も力が加わり、かつ乾燥のための風もよく当たる場所なので、小麦の旨みが凝縮され、地元の職人の中には「ふしこそが一番うまい」と話す人もいるほどだそう。手延べ製法ならではの味に出合える瞬間です。
※生麺は、地獄炊き以外のほぼすべてのメニューに使用されています。

飲食店の開業は、父であり、2代目の祥一郎さん念願だったと振り返る祥雄さん。祥一郎さんの思いを形にするため、祥雄さんと洋敬さんは島の外で料理の経験を積んだのだそうです。代々受け継がれてきた家業の自慢の五島手延べうどんを、地元の方にも観光客の方にも気軽に島内で食べてもらえるこの店は、今や二人にとっても欠かせない場所になりました。
若き職人が守る、この島の伝統と産業

この五島手延べうどんがどのように作られているのか気になり、店から車で10分ほどの場所にある製麺所を見学させていただくことになりました。工場内の2メートルほどの長さの「ハタ」と呼ばれる干し具には、おびただしい数の麺が吊るされています。生地の練りから乾燥までをその日のうちに終えるため、祥雄さんと洋敬さんは毎朝5時に麺づくりを始めます。小麦粉に混ぜるのは、島の水と海でとれた塩。同じ配合でも、気候や季節の変化で麺の状態は様変わりするため、水の量や温度、塩加減には細心の注意と、職人の研ぎすまされた感覚が必要なのだと言います。


工場では1日におよそ1トンの麺を製造しています。以前は完全手作業で行っていましたが、現在は効率化のため機械も柔軟に導入。それでも需要に追いつかず、裏の敷地では第二工場の建設が始まっていました。「以前は、島外にほとんど出ていなかったんですが、最近は島外・県外でも人気のようで、今後地場産業として島を盛り上げていければうれしいです。また、おみやげに買って帰りたいと、誰かの顔が思い浮かぶうどんを作っていきたいです」。若き職人兄弟が、島伝統の麺を守りつづけています。