食材のもつ自然のエネルギーを大切に、食べ手の記憶に残る料理に仕立てる。
FARO
エグゼクティブシェフ
調理長
能田 耕太郎 浜本 拓晃
2024.2.16
日本の豊かな食文化を、現代イタリア料理の技法で表現
能田:東京銀座資生堂ビルが竣工した 2001 年より本格イタリア料理店として営業してきた「ファロ資生堂」が、2018 年に新生「ファロ」として再始動するに際し、エグゼクティブシェフに就任しました。
当店では「メイドインジャパン」をテーマに、日本の豊かな食材や文化と現代イタリア料理を掛け合わせ、新しい表現を生み出すことを目指しています。私はイタリアでの生活が長かったので、日本に戻って改めて感じるのは、食材や伝統文化の素晴らしさ。コースでは四季折々の食材を提供するほか、インテリアやカトラリーなどには和紙や器、布製品など日本の伝統工芸品を積極的に取り入れています。
「ジオアワビとエノキのソテー」
ICT 技術を活用し、次世代のスマート漁業に取り組む島原漁協の「ジオアワビ」に持続可能性を感じたという「ファロ」の能田シェフと浜本シェフ。低温調理でじっくり火を入れたジオアワビと、有機エノキ茸の根元部分のソテーは、食感の取り合わせも楽しい一皿です。
チーム全員がアンテナを張り、全国の生産者と交流
能田:当店では、チーム全員が「フードキュレーター」という意識のもと、日本全国を巡り自ら選んだ食材を使用しています。食材を選ぶ際に大事にしているのは、素材そのものの良しあしはもちろんですが、一番は生産者さまの想いやストーリー。
産地で得られるインスピレーションは東京に戻ってからも蘇ってきて、創作意欲を高めてくれます。生産者さまによって食材の味が違うのは当たり前で、それをどう調理するかが料理人の腕の見せどころ。お客様の記憶に残るように、食材のもつエネルギーをいかに皿の上に表現するかを考えながら、日々料理と向き合っています。
「食べる前からおいしい」と確信させる、生産者の想い
浜本:長崎県の食材視察では、島原や雲仙、五島などを巡りました。長崎は、鎖国の時代に唯一海外に開かれ、日本に様々な文化をもたらした場所。現地を訪れて、そうした文化的背景が街並みにも表れているなと感じました。食材の中で特に印象的だったのは、田中たねの農園さんの種どり野菜。生産者の田中さんとお会いして、この方が作っているなら間違いない、と食べる前からおいしいと確信しました。週に 1 回送ってもらっていますが、どの野菜も苦みや酸味、甘みなど、素材そのものの味が濃く、鮮度が長持ちするので生命力の強さを感じます。
能田:現地で最も感銘を受けたのが、島原漁協さんの「ジオアワビ」。ICT 技術を用いて遠隔で管理し、人件費や燃料費を削減しながら生産性を上げていくというもので、養殖業の課題解決に貢献する考え方や手法に感銘を受けました。養殖の魚介を「FARO」で使うことはこれまでありませんでしたが、未来に対して持続可能という意味で素晴らしい食材だと感じ、必ずしも天然だけがよいのではないのだという気づきにも繋がりました。
長崎の食材や歴史、食文化を、自分たちの解釈で再構築
浜本:「ジオアワビとエノキのソテー」は、ジオアワビを白ワインとコラトゥーラ(イタリアの魚醤)を合わせた地に漬け、85℃で 4 時間ゆっくりと火を入れ、仕上げにハーブバターを塗って焼き上げます。取り合わせは、「雲仙きのこ本舗」の有機エノキ茸。有機栽培なので土に近い部分まで食べられると考え、普段は捨てられてしまう根元に近い部分を活用することに。食感がアワビのテクスチャーに似ているとも感じたので、ソテーしてアワビの肝バターを塗って仕上げました。
能田:長崎といえば、真っ先に思い浮かぶのがちゃんぽん。現地でも実際に食べてみて、自分たちの解釈でちゃんぽんを表現したのが、「サドルバック豚と魚介のコンソメ 田中農園の野菜タルト 茸のテリーヌ」。また、「平戸いのしし肩ロースハム トンナートソース」は、イタリアの伝統料理「ヴィテッロ・トンナート」を、五島の伝統食材であるカツオの燻製(生節)を使ってアレンジした一品。これらは、「ジオアワビとエノキのソテー」とともに、「食の宝庫 長崎県の食材を楽しむガストロノミーコース “NAGASAKI”」の一皿として提供しています。恵まれた気候で育った長崎の食材と、銀座から発信する現代イタリア料理の融合を、ぜひ楽しんでいただきたいです。
食の宝庫 長崎県の食材を楽しむガストロノミーコース “NAGASAKI”
提供期間:2023 年 3 月 16 日~4 月 29 日
https://faro.shiseido.co.jp/topics/18840/
取材日:2023/3/23 ライター: 笹木理恵