家族がおいしいと思う野菜を
自らの手で作りたい
雲仙つむら農園 代表
津村 義和
2024.2.19
雲仙市瑞穂町に移住し、有機農法で少量多品目の野菜作りを行う津村義和さん。どの野菜も豊かな土壌で元気いっぱいに育ち、生で丸かじりできるほど甘くなります。そこには津村さんこだわりの農業メソッドと、自然への深い探究心が秘められていました。
少量多品物の有機農業で、この地域の風土に合ったおいしい野菜を作る
2018年からここ雲仙市瑞穂町に移住し、約1万㎡の畑で有機農法の野菜を作っています。それまでは茨城県で医薬品などの安全性を確認する研究員をしていました。農業を始めたきっかけは、子どもができたことで食への意識が高まり、「安全でおいしいものをこの子たちに食べさせたい」という想いが生まれたから。40歳までには手に職をつけたいという気持ちもありました。
東京で開催された農業イベントで雲仙市役所の方と出会い、縁あってこの地で野菜作りをするようになりました。私の性に合っているのか、野菜と向き合う毎日はとても楽しいですよ。
研究員をしていた頃は数ヶ月スパンの実験の繰り返しでしたが、農業は1年間という長期間の実験の積み重ねです。種まき、苗の植え付け、収穫、種取り…さまざまなタイミングで条件を変え、変化をつけながら野菜の成長を見ています。失敗することも多いですが、それは「次はここをこうしよう!」と軌道修正をするきっかけになるだけのことですから、落ち込むことはないですね。失敗の数だけ私の「虎の巻」が長くなっていきます。
種採りで風土に合わせた野菜作りを目指す
野菜の「種採り」も、おいしい野菜を作るためのアプローチの一つとして行っています。野菜は虫に食われたり、水が足りなかったりといったストレスを感じると、身を守るために辛みや苦味・えぐみを出します。つまり、雑味のない、おいしい野菜を作るためにはできるだけ野菜にストレスをかけないのがいい。業者から種を購入して育てるのは簡単ですが、その種はアメリカや中国といった海外で採られたもので、日本の風土とは異なるところのものです。種はその土地で生まれ育ち、その土地の記憶を引き継いだものの方が成長の際にストレスを感じにくいと思うから、毎年種を採り、土地に合った野菜を作っています。
今のところ夏野菜のほとんどは、この畑で種を採ってから育てたもの。年間で6割くらいの野菜が「種採り」のものです。冬野菜の「種採り」は難しいんですよね。特に大根や白菜といったアブラナ科の野菜は交配しやすいので、他の品種と交雑してしまわないようかなり気を遣っています。
野菜作りで大切なものの一つは土の中のダイバーシティ
農薬、化学肥料、除草剤は使っていません。それらを使うと、野菜は育つけど、土が育たないと思うからです。生命力を持った、野菜本来のおいしさや味わいから遠くなってしまいます。
なので、「虫が付きやすいな」と思ったら、「どういう生態系を作ったら改善できるのかな」と考えるようにしています。米ぬかなど有機物の原体を加えると、土壌の乳酸菌や放線菌などの多様な分解者が増え、生物たちの多様性が増します。何か1つを選択的に駆逐するのではなく、全体のバランスを考えて土壌作りをする。そうすると微生物たちが拮抗し合い、病気の菌や特定の害虫だけが過剰に繁殖するということはありません。
野菜の造形に現れる神秘に魅せられる日々
我が家ではもちろん、子どもたちも野菜が大好き。生ピーマンは丸かじりしていますよ。生産者の責任として、私は自分の家族が「おいしい」と思うものしか販売してはいけないと思っています。今は年間100〜130種ほどの少量多品目の野菜を作っており、地域のイベントで出張販売したり、その時季の採れたての野菜を箱詰めして発送したりしています。時には「チンゲン菜の菜花」や「ルッコラの花(エディブルフラワー)」といったマニアックな野菜を出荷することもありますよ。
私にはまだまだやりたいことや、試してみたい農法がたくさんあります。今は膨大な作業に追われている状態なので、とにかく時間が欲しい。作業しなくていい時には…そうですね、ずーと、ボーっと、時間の許す限り野菜を見ていたいですね。「この野菜はこうやって枝を出すんだ」「蕾はこんな形をしているんだ」と、野菜たちの造形には新しい発見や魅力がいっぱい詰まっているんですよ!
取材日:2023/3/14 ライター: 井川理恵子