長崎県産食材×熟練の中華料理
伝統と技術をトップシェフ達とともに学ぶ
長崎県食材勉強会 – 長崎×中華 – スーツァンレストラン陳 渋谷店
2023.11.27
秋の深まりを感じる令和5年10月25日。知られざる長崎の食材と、それを求める料理人を結びつけるべく、長崎県食材勉強会が今年も盛大に開催されました。食の宝庫とも呼ばれる長崎。中でも中国との結びつきは非常に強く、「長崎食材を中華料理界に広めたい」という思いを抱き、次代を担う「スーツァンレストラン陳 渋谷」井上和豊料理長、「 シェ・デジマ」堀切章郎料理長がホストとなり、トップシェフ・業界関係者が一堂に介し、計15名が勉強会に参加されました。
★勉強会参加メンバー
参加料理人:
スーツァンレストラン陳 渋谷 料理長:井上 和豊 氏(日本中国料理協会南東京支部長)
レストラン シェ・デジマ 料理長:堀切 章郎 氏(日本中国料理協会長崎県支部長)
赤坂 四川飯店 総料理長:鈴木 広明 氏
ザ・キャピトルホテル東急中国料理 星ヶ岡 料理長:山橋 孝之 氏
中国四川料理 龍の子 総料理長:山中 剛 氏
中国四川料理 龍の子:北川 龍登 氏
グランドプリンスホテル新高輪 中国料理 古稀殿:吉岡 和樹 氏
ホテル雅叙園東京 調理部中国料理グループ:矢田 遼太郎氏(日本中国料理協会 南東京支部 青年部長)
ホテル雅叙園東京 旬遊紀:本間 惣太 氏
参加者:
(株)新星 代表取締役:林 明伸 氏
(株)廣記商行 東京支社長:吉川 達也 氏
日本中国料理協会 事務局長:関根 高志 氏
日本中国料理協会 事業課長:大野 次郎 氏
日本中国料理協会 業務課長:久米 浩史 氏
フリーカメラマン:久間 昌史 氏
中国と密接につながる「長崎県産食材」の魅力とは
両シェフの挨拶が行われ、勉強会がスタート。井上シェフ自ら声をかけ、集まった錚々たるメンバー。彼らに向けて「是非中国料理と密接に関わる長崎県産食材の良さを知ってもらいたい」と思いを語る井上シェフ。「長崎県産食材の良さを伝えたい」という堀切シェフも、同様の思いで今回の勉強会に参加され、長崎の料理をそのまま再現する形でご披露いただけるとのことでした。
両シェフからの挨拶のあと、まずは長崎県の地形、歴史、文化についての資料を参照しながら学びました。多種多様な地形がある長崎は、海に囲まれ、温暖で寒暖差が小さく雨が多い。そして島原半島の火山灰(地層フィルター)によって、湧き水も多いのが特徴。このような条件が長崎県を食材の宝庫とし、県内各地で様々な食材が生産され、ブランド品が提供されています。また、古代から中国との交易があり、日本初の中華街や、福建省との姉妹都市交流など、現在も続く中国との深い関わりについても紹介されました。
両シェフも愛用する数々の県産品
資料説明とともに、今回参加者に配られた県産品のお土産や、会場内の展示品について説明。井上シェフ・堀切シェフのお二人も愛用する県産品が数多く紹介されました。
★お土産・展示品
「とっぺん塩」:堀切シェフおすすめの塩、今回のメニューにも使用、天日干しが珍しい。
「五島の醤」:井上シェフが長崎県五島列島視察の際に知った。未利用魚を使用した魚醤で、生態系への負荷も少ないサステナブルな商品。
「ストレートみかん」:長崎で生産が盛んなミカンを使用したジュース、濃厚でシェフの皆様からも好評。
「煮干し」:長崎県は生産が盛んな地域で、昨年の勉強会でもメイン食材として使用されていました。もっとも有名なカタクチイワシとウルメイワシとのミックス。
★展示品
「ゆうこうのお酒」:長崎にのみ自生する柑橘類「ゆうこう」を使用したリキュール。
「喜代屋醸造元 麦みそ」:井上シェフが昨年視察した生産者さんの商品。
「SONOGI」:国内外で高い評価を受けるそのぎ茶。
「手延べうどん」「手延べそうめん」
「島原半島のたかな漬」
「蜂洞」:ニホンミツバチしか生息しない対馬で生産された貴重な和蜜。
「クエ だしの素」:クエを使用しただし醤油。
そのほか長崎発祥と言われる麦焼酎や日本酒など数多くの商品が展示され、参加者もこぞって試食していました。
厨房での調理デモンストレーション~長崎食材で中華料理に輝きを与える~【井上料理長編】
五島の醤と長崎の鮮魚でふるまう手毬仕立ての前菜
資料説明の後は、全員で厨房へ移動し調理デモンストレーションに移ります。井上シェフはまず、「長崎県産鮮魚」を使用した手毬仕立ての前菜を披露。鮮魚の味付けには先ほど紹介のあった「五島の醤 -醤油麹-」を使用して調理されました。
また、この料理は井上シェフが若手時代に、今回参加されている赤坂 四川飯店 統括料理長の鈴木氏から学んだ料理とのことで、師弟愛も感じられる一品となりました。
中華料理をより一層引き立てる「三川内焼」
料理の盛り付けには、井上シェフが惚れ込んだ長崎県の「三川内焼」を使用。「有田焼」の源流ともいわれる「三川内焼」。その三川内の方々のルーツも中国につながるとのことで、中国料理をより映えさせる、素晴らしい食器であると話されていました。
食材との出会いや思い
続いて、長崎県で養殖が盛んな「長崎とらふぐ」の他、「島原の手延べうどん」や「五島のレモングラス」といった食材を使用した井上シェフ。調理法だけではなく、今回紹介する食材との出会いや思いなども含めて紹介いただきました。
歯ごたえとコクが魅力の「対馬地どり」
対馬地どりのチキンライスに使用される「対馬地どり」は、皮に厚みがありながらも、肉は柔らかく程よい歯ごたえがあり、臭みが無くコクがある味わいを持っています。そして何より井上シェフが表現したい中国料理ととても相性が良いとのことでした。
厨房での調理デモンストレーション~長崎への地元愛を中華料理に吹き込む~【堀切料理長編】
地元食材で彩るクエの酥炸 魚香ソース
堀切料理長はまず「長崎県産のクエ」と「長崎和牛」のもも肉を使用したお料理に魚香ソースを添えたものを披露して下さいました。あしらいにも長崎で栽培されたお花を使用したりと、長崎への思いがこめられた仕上がりでした。
長崎の偉人にちなんだ車海老のおたくさ揚げチリソース
続いて長崎県「南島原産の車海老」を使用し、「おたくさ(=アジサイ)仕立ての揚げ物」を披露。調理の際には、長崎の偉人シーボルトの妻「おたくさん」にまつわるお話を交えてご紹介いただきました。
長崎の味「角煮まんじゅう」を中華風にアレンジ
さらに、長崎県諫早産「諫美豚」を使用し、卓袱料理の中でもメジャーな角煮を中国料理風にアレンジして、長崎の観光料理にもなっている「角煮まんじゅう」に仕上げてご紹介いただきました。
愛され続ける長崎のアイスデザート
デザートには長崎独特のシャーベット状のミルクセーキをご紹介。県産の「愛でたまご」を使用し、最後にクコの実を添えて中華風に盛り付けていただきました。
冒頭の挨拶でおっしゃっていた通り、長崎の料理をそのまま持ってきていただいたような、風土感満載の料理をご紹介いただきました。
堀切料理長&井上料理長による長崎県産食材をふんだんに使用した中華料理
★井上シェフ作
①白灼魚綉球 長崎県産鮮魚の手毬仕立て~五島の醤の味わいで~
②葱爆鶏包魚 長崎県産とらふぐの葱香る強火炒め
③泡椒全粒麺 長崎県”島原そだち”全粒麺を発酵唐辛子とドライトマトの旨味広がる焼きチャンポンスタイル
④長崎鶏飯対馬地どりのチキンライス ~五島産レモングラスの翡翠仕立て~
★堀切シェフ作
①長崎県産クエの酥炸 魚香ソース
②長崎県南島原産 車海老のおたくさ揚げ チリソース
③長崎県諫早産 諫美豚のバラ肉東坡煮 割包添え
④大村産バニラビーンズ 雲仙岳ミルク 食べるミルクセーキ
勉強会を終えて
鈴木料理長(赤坂 四川飯店)「どの地域にもいい食材はあって、それを引き出して食材の発展を目指していくには料理人自身の技術も当然必要になる。本日はそれらを共有する良い機会になったと思います」
山橋料理長(ザ・キャピトルホテル東急中国料理 星ヶ岡)「良い食材は生産者あってのものです。生産者の方々の思いも、ここで是非聞いてみたかったです。生産者の思いを汲み取り、またそれを表現する料理人としての技術も学び継承していく。今回はそんな良い機会になったと思います」
関根氏(日本中国料理協会本部)「厨房の中であれだけ近くで調理風景を見せてくれる事なんて中々ないですよ。このような機会をいただき、業界をあげて感謝したいです。今回のような勉強会で業界内のいい繋がりが増えていくようになると思うので、これからも繰り返し行っていってほしいですね。」
吉川氏(廣記商行)「中国との関わりが深い長崎の食材でつくる中華料理のお話も料理も非常に面白かったです。こちらでは見ないような食材も多く魅力的でした。こういった食材を広げていくことは大きな反応が期待できるのではないかと思います」
矢田シェフ(ホテル雅叙園東京)「直に食材を見て、食して、触れられる機会ってなかなか無いので、それが出来てよかったと思います。こういった機会があると長崎食材に着目しやすくなる。自然と縁のある食材に手が伸びちゃいますからね」
山中料理長(中国四川料理 龍の子)「井上シェフのお料理は東京風というか、洗練された料理といった印象で、堀切シェフのお料理は地元を思い出して懐かしい気持ちにさせてくれましたね。自分も長崎の出身で、これからは井上シェフ経由で長崎の生産者の方と繋がっていけたらいいですね」
吉岡シェフ(グランドプリンスホテル新高輪 中国料理 古稀殿)「勉強会に参加させて頂くのが初めてで緊張していたんですが、調理風景を見ながら興味のある食材に触れると緊張がほぐれました。 次回も機会があるなら参加させていただきたいです。今日お土産に頂いた調味料は持ち帰ってさっそく料理に使ってみたいです」
久間氏(フリーカメラマン)「長崎県出身で県の食材にも思い入れがあります。これまでも縁のあるシェフの方々に県産食材をご紹介してもらって、実際に一緒に長崎に足を運ぶこともありました。有名シェフも長崎の食材には大変な興味を示して下さっていて、「対馬地どり」をはじめ、長崎県産の魅力あふれる食材や、そのストーリーも含めて紹介していきたいですね」
堀切シェフ(レストラン シェ・デジマ)「今回ご紹介した食材は、触るだけで「生産者が思いを込めて作ったんだな」というのがわかるような食材ばかりでした。その分、食材を預かるプレッシャーを感じる部分もありましたが、温度管理など、食材管理に気を使い今回の調理に臨みました。生産者から預かった食材を使用し「美味しい」といっていただけたのが、何よりもうれしかったです。今回参加して頂いた料理人の方々に美味しい長崎の食材を「使ってみようか」と思っていただくのが今回の使命だと思って来ました。今回のようにメディアに紹介していただいたり、学校や料理教室をまわることで、自分も参加している中国料理協会の発展・長崎の中華の活性化に繋がればなと思います」
生産者や料理人の思いに触れ、長崎の食材・調味料や食器など様々な県産品に刺激を受けた、印象深い一日になったようです。
最後に井上シェフ(スーツァンレストラン陳 渋谷)から
「食材をなんとか発信しようともがいて、それでも発信する為の糸口を見つけられないでいる生産者の方々もいます。そうした人たちのために、自分も何か力になりたいと思っています。今の若い人達に、地元の仕事で「いつかこういう仕事したいな」と思ってもらえるように、外部の我々が「ここの食材いいんですよ」と紹介することで、東京にいる長崎の人たちにも、「あ、こんな美味しいものあったんだ」って気づいてもらえると思います。長崎には中国の文化がいっぱい入っていて、今回ご紹介した「こぶ高菜」「対馬地どり」のように中国から原種が来た食材も多い。中国に行って勉強してきた料理は日本の食材だとなかなかマッチしないが、そうした長崎の食材は中国料理に非常にマッチします。長崎にはそういったものがたくさんあるんですよ。「三川内焼」のように、すごく価値があるのになかなか世に知られていないものが広がって欲しいと思います」
取材日:2023/10/25