こだわり食材の生産者とそれを求める料理人を結び付ける
~「令和4年度 長崎県産食材勉強会」

長崎県産食材の勉強会Vol.3

大久保 武志

長崎県産食材の勉強会Vol.3

2023.11.10

2023年3月9日。曇天のもと雲仙のお山に霧が漂うこの日、交流拠点「雲仙BASE」に「食」への熱い情熱を持つ人々が大集結しました。「令和4年度 長崎県産食材勉強会」と銘打たれたこのイベントには、長崎県内の生産者47組、県内ホテル・旅館・ブライダル施設などの料理人(バイヤー)26社が参加。これまで行われた東京の一流料理人を招いた勉強会や、島原半島の生産者を巡る視察と大きく違う点は、良い食材の作り手とそれを求める人を直接結ぶ商談会の意味合いもあること。そしてイベントをしめくくる目玉となったのが、雲仙福田屋の総料理長、草野玲氏による県産食材をどっさり使った料理の試食でした。最後まで熱気に包まれた勉強会の様子をお伝えします。

開会挨拶~「食に関する講演会」

丹精を込めて作った自慢の食材を手に生産者の皆さんが続々と会場入り。自分たちのスペースに陳列して食材の魅力をアピールするテーブルを作っていきます。料理人(バイヤー)の皆さんは会場の前半分に着席し真剣な面持ちでした。

開会の挨拶は、主催の長崎県文化観光国際部部長の前川謙介氏から。「生産者と料理人の皆さんがそれぞれどんな思いを持っておられるのか、お互いに知る機会」との言葉は、まさにこの勉強会の意義を示すものでした。

次に、「食」に関する講演会では、調理職人養成校「スピリッツオブマイスター」代表取締役の中村一善氏が登壇。料理業界の人材不足と離職率の高さを指摘し、プロの人材をいかに育成するか、その取り組みについて語ってくれました。

個別商談会

生産者と料理人(バイヤー)が、組み合わせを変えながら対面で15分ずつ話をする個別商談会がスタートしました。生産者が食材の特徴や魅力を説明すると、料理人も「それならこういう風に調理したらおいしいかも」と新たな料理のイメージが次々とわいてきたようです。同時に「これをこう加工してくれたら効率的に調理できる」といった提案もありました。

調理職人養成校「スピリッツオブマイスター」の説明会・インスタグラム「ながおし」撮影会

別会場をのぞくと、先ほどメインステージで講演された中村一善氏による調理職人養成校「スピリッツオブマイスター」の、より具体的な説明会が行われていました。プロの志を持った調理人が欲しいホテルやレストランの人材担当者、生徒の進路として検討したい学校関係者など20人が参加して、実状に踏み込んだ真剣な質疑応答を展開していました。

さらに別室は、まるで写真スタジオ! 撮影機材が運びこまれ、インスタグラム「ながおし」で紹介する生産者や食材をプロカメラマンが撮影していました。

長崎県産食材を活用した料理の提案

熱気あふれる商談会の横で、福田屋の総料理長、草野玲氏が試食メニューの調理を手際よく進めていました。メニューは「島原半島『宝』鍋」と「雲仙赤牛と半島野菜のグリル」の2品。なんと150人分の試食を作ります。大きな寸胴鍋に投入されたのは、まさに島原半島中から集めた「宝もの」。エサにこだわって愛情たっぷりに育てられた豚肉や、野菜本来の甘みがぎゅっとつまった健康野菜。農家の皆さんの思いのこもったたくさんの食材がひとつの鍋の中で調和し、地元伝統の吾妻みそがそれぞれのおいしさを引き立てます。もう1品のグリルは、希少な日本古来種の雲仙赤牛をメインに、とりとりの野菜が彩りを添えたもの。2品とも、あえて手を加え過ぎず、食材の持つ旨みや甘みを最大限に引き出した料理でした。会場には試食を受け取る人の長い列ができ、おいしそうに食べる人の笑顔があちこちで見られました。

閉会挨拶

島原半島の幸たっぷりの料理を堪能したあとは、なごやかな雰囲気の中で自由商談。その後、感想や要望をアンケートに書き込みます。閉会の挨拶は株式会社十八親和銀行の取締役常務執行役員の酒井利明氏から。「あらためて、長崎県の食材は最高です」との力強い言葉で盛況の勉強会は締めくくられました。

 

長崎県調理師協会 雲仙支部長
雲仙福田屋 総料理長
草野玲 氏

良い食材との出会いは「宝もの」
こだわりの生産者とチームを組んで食を追求
生産現場に出向くからこそ伝わる食材のストーリー

僕にとって食材探しは「宝探し」。毎日、休憩時間に島原半島中をまわって、まだ知らない「スゴイ食材」がないか探しています。こだわりの生産者さんと仲良くなれば、その人とつながるまた別のこだわり生産者さんを紹介してもらえる。そうして僕の「宝」がどんどん増えていく。僕の場合は、雲仙市の種採り農家・岩崎政利さんが始まりでした。生産現場に自分で足を運んで、作り手の熱い思いがこめられた食材の魅力を教えてもらうと、言葉がすんなり自分の中に入ってくるんです。料理人こそ、現場に行くべきなんですよ。生産者さんはただの業者じゃなくて、おいしい「食」を生み出すひとつのチーム。そうした生産者さんへのリスペクトと食材のストーリーを、料理にしてお客さまにお伝えできるのは料理人として幸せなことだと思います。

近頃は、宿から車で10分のところに「福田屋ファーム」という自家菜園を作って種から栽培しています。種採りは手間がかかるけど、野菜の一生が見られる。ダイコンの花が咲いたあとのさやも「さや大根」といっておいしいんです。お客さまのおいしい顔を思い浮かべながら種をまいていますよ。

「食材の持つ力」を最大限に引き出す

僕は雲仙市出身ですが、大阪の調理師学校で学び、京都や箱根のホテルで修業しました。地元を離れたからこそ、長崎県の食材がいかに素晴らしいか本当にわかるんです。まず魚はピカイチですね。野菜も、この島原半島だけでもすごい農家さんがいっぱいいる。以前は初めにメニューを考えてから食材を注文していましたが、今は逆です。目の前にある野菜から料理のイメージを広げていく。インスピレーションの幅はかえって広がったと思います。調理はなるべくシンプルに、焼くだけ・揚げるだけ。野菜本来の旨み、甘みをじっくり引き出してあげるんです。そういうことができるのも、食材の力を信じているから。ポテンシャルのある食材は、和食以外にもイタリアン、中華の料理人から見れば全く違う魅力が引き出されます。僕には思いもよらない料理ができて、面白いですね。

島原半島の「宝」がぎゅっと詰まった料理2品

今回の勉強会で振る舞った料理は「島原半島『宝』鍋」と「雲仙赤牛と半島野菜のグリル」の2品。鍋の方はまさに「宝」がぎっしりです。まずダシは天洋丸さんの煮干し。これが吾妻みその麦とよく合うんです。僕が子どものことからなじんできた「ふるさとの味」ですね。これが野菜と豚肉をまとめてくれます。豚肉は、米などを自家配合した安全なエサにこだわる柿田ファームの雲仙あかね豚と、芳寿牧場の衛生的な環境でのびのび育つ芳寿豚。雲仙きのこ本舗さんのエリンギ・マイタケ・シメジ。人参はもりファームさん、水菜は田中牧場さん。ジャガイモ、タマネギ、ショウガはいろんな農家さんのものを集めました。そして水は、山本本店酒造所のミネラルウオーターです。

「雲仙赤牛と半島野菜のグリル」のメインは、日本古来種の雲仙赤牛です。赤身肉ですがほどよく脂が乗って、焼いて塩だけで食べるのが最高においしい。雲仙赤牛は、長崎県では高田牧場さんしか肥育していません。付け合わせとなる野菜は、廣瀬果樹園の塩タマネギ、ミヤタファームのビーツ、柿田ファームのアスパラガスです。弱火でじっくり焼くと甘みが出るんですよ。

 

取材日:2023/3/9 ライター: 龍山久美子