食材の個性を見極めて
生み出す料理には、
驚きとワクワクがいっぱい。

雲仙 福田屋 総料理長

草野 玲

大久保 武志

草野 玲

雲仙 福田屋 総料理長

2023.12.11

失敗した過去と師となる生産者との出会い

おいしい料理を作るためにはおいしい食材が必要不可欠ですから、食材に合わせた、その個性を生かした調理を心掛けています。

しかしかつての私はそうではなく、メニューありきで食材を仕入れていました。「おいしいズッキーニが手に入ったよ」と業者さんに言われても、「緑のズッキーニか。黄色の方が彩り良いのに」なんて言ったりして。横柄だったかもしれません。そんな私の考え方を変え、今のやり方へと転換させるきっかけを与えてくれたのは、雲仙市吾妻町で「種採り野菜」を作り続ける岩崎政利さんたちの存在があったから。以前、岩崎さんたちが所属する「雲仙市有機農業推進ネットワーク」の皆さんが福田屋を利用してくださったことがあったのです。そこの農家さんたちが作った野菜を使って料理し、ご提供するといった趣旨でした。その時、岩崎さんの黒田五寸人参を使ったジュースをお出ししたのです。飲みやすいようにと、牛乳や蜂蜜でしっかり甘味をつけて。それを飲んだ皆さんが、腑に落ちない、納得のいかない表情をされていたのが何だかとても気に掛かったのです。「私は生産者の人たちに喜んでもらえない料理を作っているのではないか」「このままではいけないのではないか」という不安が押し寄せ、いたたまれなくなりました。

そこで翌朝一番に岩崎さんの畑に出向き、「私に野菜のことを教えてください!」って頭を下げて頼み込んだんですよ。今思えば無鉄砲というか、迷惑な話ですよね(笑)

食材を知ることで変化していった料理

その日から毎月、岩崎さんの畑で収穫された旬の野菜が届きます。初めて見る野菜もあり、使い方が分からないこともありました。でも、野菜には毎回岩崎さんの手紙が同封されていて、それを丁寧に読み解き、自分なりに解釈し、いろいろな料理法を試していくうちにだんだんと食材が主体になった、食材そのものに調理法を合わせた料理へとシフトできるようになっていったのです。食材の方が調理法を教えてくれるんですよ。

そして、そうやって作る料理の方がお客様の反応も格段に良かった。

生産者の想い、食材の持つストーリーごと一皿に込めてお客様に届けたい

今でもことあるごとに岩崎さんの畑にお邪魔して、種採りなどの手伝いをさせてもらっています。行くたびに発見や学びがありますし、種採り野菜の生命力にはいつも驚かされます。畑だけでなく、今回の食材の一つとして使っている煮干しの製造をしている「天洋丸」さんのまき網漁船に乗せてもらい、漁の様子を見てくることもありますし、「ひらんさきの麺」を作っている「島原そだち本舗」さんのところで丁寧な製麺の作業を見学させてもらうこともあります。そうやって現場を見ておくとメニューのアイデアが広がる上、食材が生み出されるストーリーごとお客様にご提供できるのです。

「素材の世界」からみた景色は、これまでとは全く違うものでした。おもしろいし、やりがいもある。そこからいろんな仲間と繋がっていけるのも楽しいですよ。

葉、コブ、種…雲仙こぶ高菜を丸ごと使用!唯一無二の絶品うどんが誕生した

今回は、岩崎さんと同じく「種採り野菜」を生産している馬場節枝さんの「雲仙こぶ高菜」を作ってうどんを作りました。馬場さんたちは一度絶滅しかかった長崎の伝統野菜「雲仙こぶ高菜」を復活させ、2008年には国際スローフード協会の最高位「プレシディオ」に日本で初めて「雲仙こぶ高菜」が登録されるという栄誉へと導いています。

そんな壮大な物語を持つ馬場さん作の「雲仙こぶ高菜」を、今回は油で炒めた後にピューレ状にし、煮干しダシと合わせてスープにしています。一番甘味があっておいしい「コブ」の部分は天ぷらに。種は酢漬けにしてマスタードのようにあしらいました。いいアクセントになっていると思います。これだけでは味が優しすぎると思ったので、最後に煮干し油を回し掛けて少しパンチを効かせました。

「雲仙こぶ高菜」は興味深い食材なので、これまでもいろんな料理を試作してきましたが、今回はひときわおいしくできたと思います。自画自賛でちょっと恥ずかしいけど、上出来です。いろんな人に食べてもらいたいなぁ。馬場さんにも食べてもらいたいです。きっとおいしいって言ってくれるんじゃないかな。

千々石ひらんさきの麺 雲仙こぶ高菜と煮干し 島原半島への思い

長崎の伝統野菜「雲仙こぶ高菜」と、煮干しダシを合わせた色鮮やかなひと品。個性強めの2食材の組み合わせですが、驚くほど上品でこの上ないマリアージュを生み出します。滋味あふれる優しい旨味が広がって、「口福感」に包まれること間違いありません。

まわりは島原半島をぐるりと囲む海で獲れる煮干しのスープや煮干し油を海と見立て、雲仙こぶ高菜の緑や、ひらんさきの麺(千々石の棚田で育った荒木さんの黒米を調合された麺)が半島を成す大地、こぶの天ぷらを雲仙のお山、マスタードは沸々と湧き上がる溶岩をイメージし、島原半島の景色をオマージュしています。

取材日:2023/3/7,8 ライター: 井川理恵子

雲仙温泉 民芸モダンの宿 雲仙福田屋

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住所:長崎県雲仙市小浜町雲仙380-2 電話番号:0957-73-2151

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