自然と人、そして食材がひとつに溶け合う佐世保で、
今日も、ここにしかないフレッシュな一枚が焼き上がります。
SASEBOピザ食堂 代表
下川 輝
2026.1.14
佐世保発、ピザ職人とモッツァレラの物語

長崎県北部の港町・佐世保。大小200を超える島々からなる九十九島と、米軍基地のある国際的な雰囲気が、この町独特の空気を生み出しています。そんな町で、外国の方にも人気のピザ店があります。キーワードは、地元食材を厳選すること。それにより、この場所にしかないピザが生まれています。
ここにしかない一枚を支える、佐世保産モッツァレラチーズ

場所は、佐世保市の中心にある三ヶ町アーケードを抜けたらすぐの「SASEBOピザ食堂」。県内で数少ない日本ナポリピッツァ職人協会の認定店です。人気は、こだわりの生地に、トマトソース、モッツァレラチーズ、ミニトマト、バジルが乗った「佐世保マルゲリータ」。トマトの酸味とバジルの爽やかさを、まろやかなモッツァレラチーズがひとまとめにしています。シンプル・イズ・ベストな一枚だからこそ、生き生きとした素材の魅力が際立っています。

マルゲリータの主役は、なんと言ってもモッツァレラチーズ。店では、市内の酪農家で、県内で唯一モッツァレラチーズを製造している「さとむら牧場」から仕入れています。「何人かで目隠しして、さとむらさんのと他の何種類かを食べ比べたとしても、全員一致で『これがおいしい』となるくらい飛び抜けている」と話すのは、代表でピザ職人の下川さん。「イタリア人の中には、日本ではマルゲリータを食べないという人もいるんです。理由は、新鮮でないから。いくら本場のイタリア産チーズを使用していても、やはりモッツァレラは作り立てが一番おいしいという意識があるそうです。その点、さとむらさんは毎週作り立てのチーズを届けてくれる。このフレッシュ感も、おいしさの秘密だと思います」。
丹精込めて作られたチーズと、おだやかな牛たち

こうなると、製造工程やおいしさの秘密をさらに知りたくなるもの。ちょうどこの日は、さとむら牧場で週一回モッツァレラチーズを製造する日とのことで、お邪魔することになりました。佐世保市の中心部から郊外に向けて走り、ぐんぐんと山道を上っていきます。30分ほど運転したところに、牛舎が並んでいました。小さな工房では、チーズ作りの真っ最中です。


モッツァレラチーズの作り方は、主に低温殺菌した乳に、乳酸菌を加え、発酵。次に、酵素を加え、タンパク質を固める。カード(固形)とホエー(液体)に分け、pHを調整。その後、80度のお湯で練り、名前どおりちぎったら(ちぎる=イタリア語でモッツァーレ)、白くやわらかなモッツァレラが生まれます。チーズになるのは全体の10%ほど。温度管理や、pHの見極め、スピード勝負の練りなど、ほかのチーズより手のかかるモッツァレラチーズ作りです。

さとむら牧場のモッツァレラチーズには、その日の朝に搾った生乳を使用。酪農家ならではです。「とにかく新鮮でフレッシュな乳を使うことで、モッツァレラチーズの醍醐味でもある、ダイレクトなミルク感を楽しんでもらえたら」と牧場の里村睦弓さん。

牛舎では、木々の間を抜ける秋風が感じられ、牛たちが気持ちよさそうに過ごしていました。国見山系の豊かな森林に囲まれた牧場では、新鮮な山水をたっぷり使い、牛たちを飼育しています。えさには、近くの耕作放棄地で栽培された飼料米や稲わらなどを。ストレスの少ない環境で育つおかげで、さとむら牧場の乳はやさしく自然な味わいがすると評判なのだそうです。
ここにしかないおいしさを、外へ、次へ

そんなさとむら牧場のチーズを「佐世保で一番使ってるんじゃないですかね。結構宣伝させてもらってますよ」と話す下川さん。オススメのピザは、ほかにも。モッツァレラに、ゴルゴンゾーラ、リコッタ、パルミジャーノを加えたクワトロフォルマッジベースに、大ぶりにカットされたマンゴーをトッピングした「プリンセスマンゴーピッツァ」です。マンゴーは、市内の「堀内フルーツファーム」が栽培したもの。隠し味でかけるはちみつも、長崎市琴海産のシンプルな製法のものを選びました。

ここでしか食べられないものを出したいと何度も話す下川さん。地元の食材を使うことには、並々ならぬ思いがあります。「生産者の思いが込められた、いい食材が県内にこれだけあるんだから、わざわざよそから仕入れて使う必要がないかな」。オンラインショップで購入できる冷凍ピザの販売も、生産者の思いや地元食材を広めたくて始めたのだそうです。この土地で生まれた、おいしさの循環を広げていきたい。その思いで、下川さんは今日もピザを焼きます。