1994年からホテルオークラ京都で包丁を握っています。そのほとんどの時間をこの鉄板焼「ときわ」で過ごしています。料理長になったのは5年くらい前かな。
食材がジュージュー焼ける音や鉄板に当たるヘラの金属音、焼けるまでの食材の色の変化、次第に立ち上がってくる豊かな香り…こういったライブ感が鉄板焼の醍醐味だと思います。味だけではなく、調理の様子を目の前で見ていただき、音や匂いといった五感で楽しめるお料理です。そんな鉄板焼は素材が命ですから、素材自体の味を生かしたシンプルな料理を心掛けています。シンプルだけど、大胆で繊細な料理…それが私の目指す鉄板焼。当レストランは誕生日や記念日といったハレの日に利用されることも多いので、高さ約60mの自慢の眺望とともに、お客様にとっておきの時間を演出し続けていきたいと思っています。
長崎は陸のもの、海のものと食材が豊かでいいですね。特に魚介類はイトヨリ、タイ、イカなど魚種が豊富で、飽きがこない美味しさがある。私たちにとって、魚料理は次の肉料理へとつなげる大切な相棒です。いい魚を見ると「この素材をどうアレンジしようか?」とワクワクしてきますし、作りがいがあります。
当レストランではいろいろな産地のお肉を取り扱うので、私もこれまであらゆる地域のお肉を食べてきましたが、長崎和牛もサシと赤身のバランスが良く、味わいが深いのでとても美味しいですね。上質なお肉になると、ともすれば脂が強くてちょっとくどくなってしまいますが、長崎和牛はそんなことがありません。脂の重さがなく、赤身の、肉自体の味わいを感じることができます。
今回は長崎産の伊勢海老を使ってみました。京都の近くには三重など伊勢海老の大きな産地がありますが、長崎の伊勢海老もとても美味しい。いろんな海流が重なる長崎沖、五島列島付近は潮の流れが速く恵まれた漁場環境が整うため、甘みが増すのでしょうね。塩だけで充分美味しいのですが、せっかくなので長崎特産のからすみを、少しこってりしたソースにして合わせてみました。魚介独特の濃厚で深い旨味が感じられる仕上がりになっていると思います。添えている野菜類も長崎産のもので構成しています。エリンギやなめこといったキノコ類でちょっと秋っぽく仕上げました。
お料理は美味しい食材を届けてくださる生産者のみなさんあってのものです。私たち料理人はその想いを届けるパイプ役。お客様や食材との一期一会を大切に、これからも美味しいお料理を提供していきたいと思っています。
※取材の為、特別にマスクを取ってもらい撮影させて頂きました。
取材日:2022/10/5 ライター:井川 理恵子
鉄板焼「ときわ」(ホテルオークラ京都内)
京都市中京区河原町御池
TEL:075-254-2536