イタリアンの巨匠・日髙良実シェフに学ぶ

長崎食材勉強会 – 長崎×イタリアン- 日髙シェフ

大久保 武志

長崎食材勉強会 – 長崎×イタリアン- 日髙シェフ

2024.3.19

令和6年2月27日、雪解けの音色が聞こえる中、豊富な自然の中で育まれた長崎食材と、料理人・消費者とを結ぶため、長崎県食材勉強会が盛大に開催されました。

今回は人気料理「アクアパッツァ」を日本中に広めたパイオニアであり、現在も日本のイタリア料理界をけん引し続ける巨匠、日髙良実シェフをお招きしました。イタリアンのトップシェフとともに、業界関係者が一堂に介し、計35名もの方々にご参加いただきました。

 

★参加シェフ(順不同)

Ristorante ACQUA PAZZA オーナーシェフ 日髙良実シェフ

Ristorante ACQUA PAZZA 田中大晴シェフ

Tanta Roba 料理長 林祐司シェフ(東京都/イタリアン)

701(nanamaruichi) オーナーシェフ 直井一寛シェフ(東京都/イタリアン)

 

★ゲスト(順不同)

水産未来研究所 営業部 取締役 坂本大輔氏

株式会社 土井農場 代表取締役 土井賢一郎氏

「食材の宝庫」長崎県産食材の魅力

まずは長崎県東京事務所所長 村田より開会の挨拶が行われ、勉強会がスタート。

長崎県食材を、首都圏をはじめとする大消費地域でのブランド化を目指す中で、シェフの方々を産地に招き、生産者との交流も進めてきた長崎県。昨年11月には、今回の主役である日髙シェフも長崎にお招きし、各地を回っていただきました。今回の勉強会では、日髙シェフが現地で出会い、厳選していただいた食材をもとに、料理をご披露いただけるということで、非常に楽しみです。挨拶の後、まずは長崎県の地形、歴史、文化について参加者への講義が行われました。日本有数の海岸線の長さや、海と山に囲まれた自然豊かな土地柄、異国情緒あふれる食文化など県の特徴とともに、日髙シェフが実際に足を運んだ場所についても紹介されました。

日髙シェフによる食材紹介・調理デモンストレーション~素材そのものの味を最大限に輝かせる~

資料説明の後は、日髙シェフによる調理デモンストレーションに移ります。

まずは「長崎対馬地どり」と「諫早の小長井牡蠣」を調理。「イタリアンの良さである『素材の味をシンプルに引き出す』というのがウチのスタイル。ずっとそういう風にしてきました」と語る日髙シェフ。どちらも味付けは最小限にとどめ、長崎県自慢の食材本来の美味しさを、最大限に引き出す調理法を披露していただきました。

『元祖』国産パスタ

次に調理されたのは「長崎スパゲッチー」。これを長崎県産のからすみと、長崎県産オリーブオイルでからすみパスタに。日本のパスタのルーツと言われている「長崎スパゲッチー」は、モチモチとした麺で、癖になる食感と美味しさ。さらに長崎ではこのパスタを焼きそばとしても使用されている、というエピソードも添えてご紹介いただきました。

食材や生産者との出会いと思い

続いて、水産未来研究所の「陸上養殖のクエ」の他、「伝統柑橘ゆうこうを飼料にした戸石ゆうこう真鯛」・「戸石トラフグ」や「諫美豚」「ウチワエビ」といった県産食材を使用した日髙シェフ。

「我々料理人は、土地に行って生産者と話をして、良さを感じ、その上で料理にしていくのが生業だと思う。今回長崎には2日間と短い時間だったが、たくさんの食材や生産者の方と出会いがありましたし、全然時間が足りなくてまだまだ行けていない場所が多くてまた長崎に行きたいですね」

調理法と共に、今回紹介する食材との出会いや思いなども含めて紹介いただきました。

錚々たるシェフ達が腕を振るう

日髙シェフによる講義と並行して、今回アシスタントとしてご参加いただいたシェフ達により、参加者に振舞う試食品が次々に調理されていきます。会場にはなんとも言えない美味しそうな香りが終始漂っていました。

爽やかな柑橘と自慢のお茶

デザートは幻の柑橘とよばれる「ゆうこう」、そして日本茶 AWARDなど、数々の賞を受賞する「そのぎ茶」をシャーベットに仕上げて頂きました。

さらにそのぎ茶は水出しにして提供されました。甘味とうま味が溶け込んだ、そのぎ茶の深い香りと味をお楽しみいただきました。

ゲストによる食材紹介

日髙シェフによる食材説明の他にも、現地から招待された生産者のお二人にも食材の魅力をご紹介いただきました

未来水産研究所 営業部 取締役 坂本大輔氏~まさかの『陸上』クエ養殖~

「山の上で」というのが非常に特徴的。「なぜ陸上養殖かというと、今非常に海が汚れているから」と語る坂本氏。陸上養殖システムは衛生的で、外からの雑菌などが一切入らないということで、抗生剤等を全く使用せずに、ほぼ無菌状態の安全安心なクエの養殖が可能になるとのこと。また、陸上養殖では適正な管理がしやすく、年中元気なクエを育て、常に旬のクエが食べられる素晴らしい状態を作れるのだそうです

株式会社 土井農場 代表取締役 土井賢一郎氏~お米で育てた究極のブランド豚を世界へ

資源循環型農業の取り組みとして、飼料に自社の米を使ってみたら、非常に美味しい豚になったという「諫美豚」。お米をあげるとオレイン酸の割合が増え、脂がきれいになって、肉の甘味やうま味がより強くなるとのこと。「諫美豚を世界トップレベルのブランドにして、安心安全で美味しい本物の農産物を消費者の皆様に提供したい」という、熱い思いを語っていただきました。

紹介しきれないほど数々の県産品。今回の勉強会ではその他、収穫時期の都合で説明のみとなったアボカドや、試飲も兼ねた長崎ワイナリーのワインなども紹介されました。

★調理食材一覧

①長崎対馬地どり

②小長井牡蠣

③長崎スパゲッチー

④伝統柑橘ゆうこう

⑤アボカド(今回は説明のみ)

⑥陸上養殖クエ

⑦養殖 戸石ゆうこう真鯛・戸石トラフグ

⑧そのぎ茶

⑨諫美豚

⑩ウチワエビ

⑪大島トマトピューレ

⑫長崎県産からすみ(生・パウダー)

⑬長崎県産ワイン(小浜温泉ワイナリー・五島ワイナリー)

⑭長崎県産オリーブオイル

⑮長崎にぼし

勉強会を終えて

林シェフ(Tanta Roba)

「やはりまだまだ知らない食材がいっぱいあるなと感じます。ここまで『養殖のクエ』のクオリティーが高いっていうのはびっくりしました。それに今日の豚(諫美豚)は結構脂身に甘みがあって、肉の旨みもあっていいなと思いました。長崎は食材がいろいろ豊富で、日本っぽい感じもあるんですけど、異文化が非常に入るところがあって、そこでさらに調理法もいろんなのがあるから、様々な食材が長く続いてるのかなって思いますね」

 

直井シェフ(701(nanamaruichi))

「長崎にこんなにいろんな食材があるんだなっていうのを、今回知る事が出来て良かったです。普通お茶と、例えば魚介とかが一緒にあったりしないじゃないですか?それが長崎なら四季折々いろいろな食材が手に入るんだな、というのが今回印象的でした。お茶、柑橘、魚介、あと肉もある。1通りの食材が揃うんだって驚きがありますね」

 

田中シェフ(Ristorante ACQUA PAZZA)

「シンプルに自分がまだ教わったことのない長崎県の食材を手にとり、また日髙シェフから生産者の思いとかどういう風に作られているかというのを直に聞いて、それで食材を扱うということにすごいやりがいを感じました。日髙シェフがおっしゃる通り、どういう風につくられたのかを知らないまま使うのと、製法や生産者のお気持ちを理解した上で料理をするというのは、全然違うって事がわかりました。すごく大切なことだと感じました」

 

坂本氏(水産未来研究所)

「長崎にはうちの会社に限らずいっぱいおいしいものがあるので、ぜひ知っていただきたいです。「食べチョク」「ふるさと納税」など、機会は増えてきましたが、発信の機会はまだまだ必要です。長崎は海の物、山の物で全国的に見ても本当にバリエーション豊かですから、こういう勉強会を通してどんどん発信出来ればいいですね。クエに限らず、今『養殖ものの方がいい』という評価をもらっています。魚数にもよるんでしょうけれどもやはり安全ですから。そういう意味でもぜひ使用していただきたい。育つ器を持っているので、味には自信を持っています」

 

土井氏(土井農場)

「生産現場ってのは中々販売のところは経験がないので、こういった食材勉強会はものすごく大事な部分だと思います。僕たちのためにしてもらったみたいで、本当によくやって下さった、という思いです。諫美豚は餌に米を使用しています。なので諫美豚のブランドが育てば、その利益をまた米農家に還元でき、地域全体を守ることに繋がる。地域がブランドを育て、やがてそのブランドが地域を支えていくという構造を目指しています。日本農業というのは、時代の流れと消費者の皆さん方のニーズに応じて形を変えていく。しかし、変えてはならないものがある。『国民の食料を守り、自然環境を守って、国民の健康と命を守っていく』という日本農業の普遍的理念だけは絶対に揺るがない。このようなメッセージがこの諫美豚の中に込められている、素晴らしいブランドなんです」

 

日髙シェフ(Ristorante ACQUA PAZZA)

「長崎に行ってつくづく思ったのは、本当に多品目においておもしろい食材がいっぱいある、ということです。それとやはり気候やヨーロッパからの文化、そういうものがすごく混じり合っていて、不思議な文化の土地だなと思います。日本の地形の中でも独特で、大量に生産するものは少ないんでしょうけれども、少量多品目、そういう食材の宝庫だなという感じがしますね。大量に作っていない分、生産者さんの考え方、活かし方、考え方が反映されていますよね。地鶏や、諫美豚も本当に資源循環型農業を大事にしたいということで、お米を餌にしたら美味しい豚が出来たりとか、本当に食材を愛していますよね。そういう生産者の思いがすごく届けられる食材が多いんじゃないかな、という感じがします。

長崎は行ってみて、いろいろ食べるのが楽しいところです。卓袱料理もそうだし、トルコライスもそうだし、餃子とか、いろいろな食べ物がいっぱいある。食文化という観点でも訪れていくべき場所になったと本当に思います」

 

取材日:2024/2/27